ページ

2016年10月28日金曜日

【今日の1曲】No.5 - 映画『ロード・オブ・ザ・リング:旅の仲間』より「ホビット庄の社会秩序」

今回は、前回の『マトリックス』とはうってかわって、ファンタジーの古典とも言える『指輪物語』の映画版『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズからのご紹介です。

〈基本データ〉
タイトル:ホビット庄の社会秩序/Concerning Hobbits
出典:『ロード・オブ・ザ・リング:旅の仲間』
作曲者:ハワード・ショア
演奏オーケストラ:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズは、小説版のタイトルを踏襲して、「旅の仲間(The Fellowship of the Ring)」「二つの塔(The Two Towers)」「王の帰還(The Return of the King)」の三部からなります。以下、それぞれの映画を「FotR」「TTT」「RotK」と略します。

『指輪物語』全部は読んだことはなくても、読み始めたはいいが最初の章で力尽きてそれっきり、という人は多いのではないでしょうか。というのも、最初の章は丸ごと「ホビット族」と呼ばれる小人たちの生活についての解説が書かれているのです。作者のJ.R.R.トールキンが学者であるせいか、論文のような書き味で物語が始まっているので、多くの人がそこで読むのをやめてしまうようです。

そして、その冒頭、ホビットたちの生活を描写している場面でかかるのが、この田舎風ののどかな曲。海外でも高い人気を博し、YouTubeなどにも動画がたくさん上がっています。また、この曲でつかわれているテーマ(後述)をゆっくりにアレンジし、歌詞をつけたバージョンである「イン・ドリームズ」も人気です。
以下、筆者のアップロードした動画を使って解説します(宣伝のためではありません、著作権の関係で他の動画は使えないのです……)。

ハワード・ショアは、おそらくジョン・ウィリアムズよりも厳格にライトモティーフを使う作曲家で、『ロード・オブ・ザ・リング』3作と『ホビット』3作で、人物・心情・状況・場所などにテーマを割り当て、それを変形したり合わせたりして作曲するという、非常に構築的な音楽が特徴です(いずれそれらのテーマについて特集号を出したいと思っています)。
物語全体を通して、ホビット族、特に主人公たちを描写するのに使われるメロディーが、以下のものです(上記動画 0:19 など)。









このメロディーを奏でているのは(原曲では)ティン・ホイッスルというアイルランドの笛です。さらにこの曲にはさまざまな民族楽器が使われています。
・ティン・ホイッスル
・ミュゼット(アコーディオンの類)
・ケルティック・ハープ
・マンドリン
・ダルシマー(弦を叩いて音を出す楽器)
・チェレスタ
・ギター
・ボウラン(アイルランドの太鼓)
・フィドル

さらに、この「ホビットのテーマ」の変形とみられるもう一つの旋律が、以下のものです(上記動画 0:41)。これは原曲ではフィドルで演奏されます(フィドルというのは、基本的にはヴァイオリンのことで、アイルランド音楽に使われるものはフィドルと呼ばれます)。
この「ホビットのテーマ」は2つの映画シリーズにまたがって主人公を描写する特別に重要なテーマです。さまざまな楽器で演奏されるので、ぜひサウンドトラックを聴いて、さがしてみてください。

【次回予告】
次回は映画『パイレーツ・オブ・カリビアン:呪われた海賊たち』より、「彼こそが海賊」です。お楽しみに!

2016年10月26日水曜日

【今日の1曲】No.4 - 映画『マトリックス』より「メイン・タイトル -- トリニティ・インフィニティ」

本日は、20世紀の終わりに登場した、最高に「リアル」なサイバーパンクSFアクション映画『マトリックス』シリーズからのご紹介です!

〈基本データ〉
タイトル:メイン・タイトル -- トリニティ・インフィニティ/Main Title - Trinity Infinity
出典:『マトリックス』
作曲者:ドン・デイヴィス
演奏オーケストラ:不明

作曲者のドン・デイヴィスは、前回の記事で触れた通り、『ジュラシック・パークIII』も手がけています。『ジュラシック・パークIII』では、ジョン・ウィリアムズのテーマを引き継ぎ、比較的「伝統的」な映画音楽を作っていましたが(試しにYoutube等で "Plane Ride/Alan's Nightmare" を検索してみてください)、『マトリックス』でのデイヴィスの音楽は一味違います。

『マトリックス』でのデイヴィスの作風の特徴は、金管楽器の鋭い和音、金属的な打撃音、採譜するのが極めて困難な各楽器のバラバラの動きです。仮想世界の中で主人公と「エージェント」たちが、超人的な動きを以って戦うこの映画に、これ以上に合う音楽は考えられません。我々が現実だと考えている世界が、実はコンピュータに作り出された「マトリックス」と呼ばれる幻影に過ぎず、実際の世界ではコンピュータが人間を支配し、電力供給源としているという設定のこの物語では、「マトリックス」と、機械との戦いの真っ最中の「現実世界」の対比がはっきりとなされています。コンピュータとの戦いを描いた作品で、あえて電子音ではなくフルオーケストラをつかうあたりが面白いですね。この曲でも、2:21あたりでは金管楽器が緊迫感を高め、若干ジョン・ウィリアムズを思わせますが、その直後にピアノのシャープな細かい打撃が入り、やや近未来的な音作りがなされているのがわかります。

さて、三部作を通じて使用されるモチーフが以下のものです。

至極単純なように見えますが、注意して聴いていると、これが繰り返し出てくることに気がつくことでしょう。

※※※ネタバレ注意※※※
ちなみにタイトルの「トリニティ・インフィニティ」は、ヒロインの「トリニティ」という名前(お分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、キリスト教の「三位一体」の意味ですね)と「インフィニティ」を合わせ韻をふませたものです。これに呼応するものとして、トリニティが主人公ネオと旅をする中で命を落としてしまう場面でかかる「トリニティ・デフィニトリー」があります(『マトリックス・レヴォリューションズ』)。こちらもファゴットソロとミュートつき弦楽の美しいハーモニーからなる良曲ですので、ぜひ聴いてみてください。

『マトリックス』は三部作で、『マトリックス・リローデッド』『マトリックス・レヴォリューションズ』と続いています。筆者のイチオシの曲は『レヴォリューションズ』の「ナヴラス」です(これを「今日の1曲」で取り上げなかったのは、これ一曲について特集号ができるほどの内容量だからなんです。それはまたいずれ、こちらに書こうと思います)。

【次回予告】
次回は映画『ロード・オブ・ザ・リング』より、ハワード・ショア作「ホビット庄の社会秩序」です。お楽しみに!

2016年10月21日金曜日

【今日の1曲】No.3 - 映画『ジュラシック・ワールド』より「ジュラシック・ワールドへようこそ」

さて『ジュラシック・ワールド』というからには、3連続でジョン・ウィリアムズかと思いきや、本作はマイケル・ジアッキーノの作品です。ジアッキーノといえば、『スター・トレック』(2009年版) 『Mr. インクレディブル』『レミーのおいしいレストラン』『カールじいさんの空飛ぶ家』『トゥモローランド』『ズートピア』などの映画に加え、ディズニーランドの人気アトラクション、スペース・マウンテンのBGMなども担当しています。
〈基本データ〉
タイトル:ジュラシック・ワールドへようこそ/Welcome to Jurassic World
出典:『ジュラシック・ワールド』
作曲者:マイケル・ジアッキーノ
演奏オーケストラ:不明

本作のサウンドトラックで、ジアッキーノは『ジュラシック・パーク』シリーズ最初の2作のテーマ(ジョン・ウィリアムズ作品)を活用すると同時に、独自の新しいテーマも組み込んでいます。
以下の譜例が、今回追加されたテーマです(あまりに新しい映画であるため、名前をつけて呼んでいる人は見かけません)。







さて、歴代の『ジュラシック・パーク』シリーズのサウンドトラック作曲者は以下の通りです。
『ジュラシック・パーク』(1993)&『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997):ジョン・ウィリアムズ
『ジュラシック・パークIII』(2001):ドン・デイヴィス
『ジュラシック・ワールド』(2015):マイケル・ジアッキーノ

余談ですが、ジアッキーノは、1997年に発売されたコンソールゲーム『ロスト・ワールド:ジュラシック・パーク』と、1999年に発売されたプレイステーションのソフト『ウォーパス:ジュラシック・パーク』のサウンドトラックを担当していました。この時使用した曲が少し使用されているとのことです(筆者は未プレイのため確認は取れておりません。ご了承ください)。

ジョン・ウィリアムズに関しては、これまで2回の【今日の1曲】でご紹介してきました。こちらもご参照ください。

ドン・デイヴィスは、おそらく聞いたことがある人は少ないと思うのですが、彼がサウンドトラックを手がけた名画『マトリックス』シリーズは、とても有名ですね。

【次回予告】
ということで、次回はドン・デイヴィスつながりで、映画『マトリックス』より、「メイン・タイトル」です。お楽しみに!

2016年10月15日土曜日

【今日の1曲】No.2 - 映画『ハリー・ポッター』シリーズより「ヘドウィグのテーマ」

前回の【今日の1曲】ではジョン・ウィリアムズ作曲『スター・ウォーズ』より「メイン・タイトル」をご紹介しましたが、今回は同じくウィリアムズ作『ハリー・ポッター』シリーズより「ヘドウィグのテーマ」をお届けします。

〈基本データ〉
タイトル:「メイン・タイトル」
出典:『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
作曲者:ジョン・ウィリアムズ
演奏オーケストラ:ロンドン交響楽団 など



ハリー・ポッターといえば、冒頭の金属的な可愛らしい音による、三拍子の神秘的なメロディ。この楽器はチェレスタという鍵盤楽器で、作曲者によれば、ヘドウィグのフワフワとした軽さをイメージしているのだそうです。

音源:ヘドウィグのテーマ

もちろんこのメロディは映画の中で繰り返し使われるので、「メインテーマ」と呼ぶに値するものなのですが、一応は「ヘドウィグのテーマ」が正しい名称のようです。

ハリー・ポッターでもう一つ有名なメロディはこちら。クウィディッチの場面で流れていたのを思い出される方は多いのではないでしょうか。
音源:ニンバス2000のテーマ

このメロディは「クウィディッチのテーマ」、「ニンバス2000のテーマ」など様々な呼び方をする人がいるため、呼び方はさだまっていません(ただし、後者に関しては、サントラ未収録曲の中に「ニンバス2000」と題された木管合奏曲で、このメロディを変奏するものがある、という根拠はあります)。

曲自体の話からは少しずれますが、『ハリー・ポッター』シリーズの作曲家は途中で何度も変わっています。
『ハリー・ポッターと賢者の石』:ジョン・ウィリアムズ
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』:ジョン・ウィリアムズ
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』:ジョン・ウィリアムズ
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』:パトリック・ドイル
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』:ニコラス・フーパー
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』:ニコラス・フーパー
『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part 1』:アレクサンドル・デスプラ
『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part 2』:アレクサンドル・デスプラ

実はジョン・ウィリアムズが作曲を担当したのは最初の3作だけで、その後3人の作曲家が交代していたのでした。ウィリアムズによる「ヘドウィグのテーマ」の旋律は、8本の映画全てに使われていますが、『炎のゴブレット』を境にして急激に使用回数が減少します。これは、ウィリアムズ以外の担当者、特に最後の2人が、ライトモティーフ(前回の記事参照)を重視しない点で、ウィリアムズと大きく異なるスタイルを持っていたことが原因の一つとして挙げられるでしょう。
なお、同じファンタジー映画のジャンルで言えば、パトリック・ドイルは『エラゴン』、アレクサンドル・デスプラは『ライラの冒険 黄金の羅針盤』などを担当しています。

ちなみに「ヘドウィグのテーマ」は、サウンドトラックCDでなんども聴くことができますが、『アズカバンの囚人』サントラ版の1曲目「ルーモス!(ヘドウィグのテーマ)」のものはチェレスタの音色が前2作と異なっており、再録音したものと思われます。

他の巻の曲も、これからこのコーナーで扱っていこうと思います!

【次回予告】
映画『ロード・オブ・ザ・リング:旅の仲間』より「ホビット庄の社会秩序」

お楽しみに!

文責:中野

2016年10月14日金曜日

【今日の1曲】No.1 - 映画『スター・ウォーズ』シリーズより「メイン・タイトル」

みなさんが「映画音楽」と聞いて最初に頭に思い浮かべるものは、どのような曲でしょうか。『ハリー・ポッター』、『ジュラシック・パーク』、『マトリックス』、『ロード・オヴ・ザ・リング』……。「映画音楽」とひとくちに言っても、映画のジャンル、作曲家によってさまざまなものがありますよね。

その中から今回は、【今日の一曲】シリーズの記念すべき第1号として、映画の古典作品とも呼べるほどに長い歴史を持ちつつ、現在も新しいエピソードが制作されている『スター・ウォーズ』シリーズより、言わずと知れた「メイン・タイトル」をご紹介します。

〈基本データ〉
タイトル:「メイン・タイトル」
出典:『スター・ウォーズ』エピソード1〜7、おそらくこれから公開予定の8・9にも使用される

作曲者:ジョン・ウィリアムズ
演奏オーケストラ:ロンドン交響楽団 など

ジョン・ウィリアムズという名前を聞いたことがある人は多いのではないのでしょうか。彼の名を聞いたことはなくとも、彼の曲はきっと一度は聞いたことがあるはずです。なぜかといえば、有名なアメリカ映画の音楽はことごとく彼の作品であると言っても過言ではないからです。『スター・ウォーズ』のみならず、『ジュラシック・パーク』、『ホーム・アローン』、『インディ・ジョーンズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ハリー・ポッター(1〜3巻)』、『ET』、『ジョーズ』、これらの音楽はすべてジョン・ウィリアムズの作品です。

そのジョン・ウィリアムズが多用した音楽の組み立て方が、「ライトモティーフ」と呼ばれる作曲方法です。これは登場人物や場所、感情などに固有のモティーフ(動機)を割り当て、状況を描写・暗示する技法です。もとはこの技法を確立したのはクラシックの作曲家、リヒャルト・ヴァーグナーであるとされています。

この「メイン・タイトル」にも、『スター・ウォーズ」の他の場面にも登場するモティーフ(動機)が組み込まれています。
スター・ウォーズといえば、冒頭の「B-F-EDCB-」ですよね(下図参照)。



これは作品全てに使用されている重要なモチーフですが、強いて言うならば主人公ルークのテーマであるとされています。そのため、エピソード4から6では多用されるのに対し、現時点での最新作、エピソード7ではあまり使われず、代わりにヒロインであるレイのテーマ(これについてもいずれ取り上げたいと思います)が頻繁に使われています。

さらに1:36あたりから登場する「FF-D FF-D AA-GAGF」のモチーフは、銀河帝国に対抗する反乱軍とされます。








3:07以降、低弦(チェロ・コントラバス)は流れるような旋律を奏で始めます。これは本作のヒロインであるレイア姫のテーマです。






 いずれこのブログでも、スター・ウォーズやその他のジョン・ウィリアムズ作品について、私たちの分析の成果を配信することになるかもしれません。さらに詳しい分析に、乞うご期待!

文責:中野